生きる言い訳

「なぜ生きるのか?」「いかに生きるべきか?」という問いに正面から挑戦する、哲学・倫理・思想ブログ

新型コロナウイルス第七波襲来。我々は何度同じ過ちを繰り返すのか

 2020年初頭に端を発した新型コロナウイルスSARS-CoV-2による感染症災害にたいして人類は、そして日本は、今のところ敗北続きである。根拠のない楽観論、ワクチン万能論、新薬待望論、エリートパニックによるリスクコミュニケーション不全、生存者バイアスによる世論の歪み、新興宗教と右翼を媒介とした「コロナはただの風邪」言説や陰謀論などなどによって戦線は打ち砕かれ、もはや「いつ過ぎ去るかも分からぬものが過ぎ去るのを待つ」という受動的な戦略しか取れなくなっている。そうしている間にも犠牲は積みあがっていく。

 そして今、2022年7月下旬であるが、日本では感染拡大の波が再来し、20万人/日の感染者数を叩き出している。直接的な原因と言えば、6月初頭の空港検疫の緩和と7月10日投開票の選挙運動がやり玉にあがろうが、こうしたことはもはや些末な問題である。

 我々の抱える最も根本的な問題は、戦略的視点とフィードバックの欠落にある。7度も感染拡大を許し、そのたびに感染規模とベースラインが増大しているにもかかわらず、戦略的修正はなされていない。もう何度も医療崩壊を起こしているにも関わらず、第七波でまた同じ課題に直面している。このままでは幾度となく繰り返すことだろう。

 医療崩壊を防ぐために病人を見捨てる、医療崩壊を追認して諦めるという本末転倒な解決策(愚かにも我々の政府やその取り巻き連中はこの策に魅了されている)を望まないのであれば、我々は状況を変えなければならない。

 而して、我々はいかに感染症災害に向き合い、これを打破できるだろうか?現状、地球上でこの問題にもっともよく対応しているのは中国と北朝鮮という、超集権的独裁国家である。極度の権力集中と民主主義の排除がなければ、ウイルスには勝てないのだろうか?私はそうは思わない。なぜなら、我々の躓きは国家体制の選択のはるか後方で起きているからである。愚かな極論に走る前に、我々が何に躓いているのかよく足もとを見てみることだ。それで、躓きの石など存在せず、我々は自分自身の足に躓いて転んだマヌケだということが分かるだろう。実際、感染症対策の失敗は全て、欺瞞的言説の自家中毒とでもいうべきものをその遠因としている。

 そういうわけで我々は、「ハンマーとダンス」だの「K値」だの「マイクロ飛沫感染」だの「PCR検査の偽陽性」だの、「三密」だの「オミクロンは重症化しない」だの「自宅療養」だのといった欺瞞的言説を退け、自分自身の足でしっかりと立ち、歩かなければならない。そうしたうえではじめて物事の解決の地平が見えてくるだろう。

 そうした仕事は、本来は相応の横断的な知識を持つ専門家、少なくとも感染症分野で博士課程程度の教育を受け、さらに社会一般の教養に富み、今般の事情を良く踏まえた人間のやるべきことである。しかし、国家政府と技術官僚集団が感染制御に失敗している以上、市民的な議論と合意によってこれを成し遂げるほか道はない。

 そこで以下に、2021年衆議院選挙に際して作成した、新型コロナウイルス対策の総合戦略を提案する文章に加筆修正したものを掲載する。これは専門的な知識というよりも、専門的な知識を運用するための枠組みを提供するものである。見るに堪える内容ではないのかもしれないが、こうするよりほかにやりようがないところである。

 

救国連立内閣政策集私案(2022年7月修正版)

 

はじめに:基本的な捉え方

感染症のミクロとマクロ
 ウイルス(あるいは感染性細菌)の挙動には階層性が存在する。
 最も小さいレベルの挙動は、人の体内で行われるウイルスの再生産である。これはウイルスの分子的・遺伝子的性質が問題になる。これはウイルス学や免疫学の分野である。
 次の階層は、空間中におけるウイルスの物理的な挙動である。これはウイルスの物質的な性質とかかわり、逆に遺伝子的性質はあまり問題にならない(もっとも、ウイルスがどのような物質的性質を持つかは遺伝子が決定しているのであるが)。何を媒介に感染するか、飛沫感染か飛沫核感染するかは、ウイルスがどの程度の乾燥に耐えるかなどが問題になってくる。物体上で何時間生存できるかなどもこの階層の問題である。ここも微生物学・ウイルス学の範疇である。
 第三の階層が、個体間でのウイルス感染である。第一の階層、第二の階層が決定する条件に、個体間の空間内における関係(向かい合って座っていたか、マスクをしていたか、長時間一緒にいたかなど)を加えて記述される。つまり、第一、第二の階層はウイルスの性質の問題であるが、第三の階層以降は環境が問題になってくる。
 第四の階層は、集団におけるウイルス感染である。ここが疫学の専門とする分野である。第三の階層では個体間の問題であったものが、個体と個体と個体と個体…の問題になると、性質が変わってくる。個々の具体的な関係性は重要ではなく、全体としての実効再生産数(後述する)などの関数が立ち現れる。
 
 なぜこのような階層性を明らかにしておく必要があるのか。それは、階層が違えばゲームが全く異なってくるからである。
 体内でのウイルスの挙動は、疫学において一部の条件を決定しはしても決定的に重要なわけではない。病原体となる細菌が特定されていなくても疫学的対策は可能であった*1。第二の階層の空気感染するか否かが実際に危険かどうかというのは、第三の階層の諸条件を待たなければ決められない。第三の階層(個体間での感染)では効果が認められる感染対策が、疫学的には十分に有効でない場合もある(感染率が下がっても、実効再生産数が1を下回らなければ社会的な感染状況は終息しない)。
 
 重要なのは、目的を明確にし、目的に適した階層での対策を行うことである。このような階層性を認識していなければ、意味のない議論と対策にリソースを割いてしまうことになる。
 政治の役割は、なんといっても第四の階層、疫学的に感染症を封じ込めることにある。政治が行うべき感染症対策は、食中毒予防の呼びかけ(食中毒予防は第三の階層に属する行動である)とは異なっている。この分析によって、現状日本で行われている感染対策の致命的欠陥が明らかである。「マスク着用」「三密回避」といったものは、第三の階層においては有効な感染対策かもしれないが、それが第四の階層でどの程度機能を発揮し、どこまで行えば有効かという視点をまったく欠いているのである。これはひとえに政治の無能力と不作為による。複雑な関数を処理できるスーパーコンピュータ「富岳」に、実用的には粗いデータで構わない飛沫の挙動を計算させるなど、まさにこのような俯瞰的視点のなさを象徴する愚行なのだ。

 

個体間における感染症の感染確率のモデル化
 ここでは、個体間の感染確率(感染者が非感染者に感染させる確率)はどのような関数で決定されるかを述べる。これは、前の節でいう第三の階層の問題である。ミクロの感染率は、疫学的な感染対策(第四の階層の問題)に関わってくる。なお、ここでの議論はマクロの感染対策のために状況を俯瞰するためのものであり、個別の専門的見解については立ち入らない。細かい議論と具体的な数字については専門家に任せ、抽象的で数理的な把握に徹する。

 

 ミクロな感染確率Pは、感染に関わるウイルスの性質(感染力)\boldsymbol{I}、環境要因\boldsymbol{Fe}、感染者の個体要因\boldsymbol{F_0}、非感染者の個体要因\boldsymbol{F_1}の関数と捉えられる。これらの要因は、さらに複数の子要因を持つため、ベクトルで表される。

P=(\boldsymbol{I},\boldsymbol{F_e},\boldsymbol{F_0},\boldsymbol{F_1})

 実際には、この感染確率Pを導出する関数それ自体が、ウイルスの性質によって定義される。

 感染に関わるウイルスの性質\boldsymbol{I}には例えば、感染するのに必要なウイルス量、感染者が排出するウイルス量、感染経路や環境中での挙動が含まれる。ある一種類のウイルスについて考える場合、これらはすべて定数である。

 環境要因\boldsymbol{F_e}は、ミクロな感染確率を求めたい状況を記述する関数である。感染者-非感染者間の位置関係や、温度や湿度、換気率などが含まれる。

 個体要因\boldsymbol{F_n}は感染者、非感染者それぞれの状態を記述する関数である。年齢、性別、体調、免疫力、疾患の有無、マスクの着用などが含まれる。

 ウイルスの感染は、実際には複数の条件が相互に関わり合う複雑な世界である。しかし、ウイルスの性質\boldsymbol{I}がそれぞれの要因に対する感染確率に対応するように事前処理を行えば、感染確率Pはこれらのベクトルの内積で求まると考えられる。

P=\boldsymbol{I}\cdot\boldsymbol{F_e}\cdot\boldsymbol{F_0}\cdot\boldsymbol{F_1}

 単位時間あたりの感染率を求めるならば、時間t微分して、

\partial P(\boldsymbol{I},\boldsymbol{F_e},\boldsymbol{F_0},\boldsymbol{F_1})/\partial t

 

社会における感染の拡大のモデル化
 上のミクロ感染率を踏まえて、社会における感染拡大をモデル化する。第三の階層から第四の階層の議論に移行するというわけだ。

 人口m人の社会のなかでの感染者を1からnまでナンバリングしたとして、社会全体の感染拡大率はそれらがほかの人に感染させる確率の平均なので、総和を感染者数nで割って

\sum\limits_{1\leq k\leq n}\sum\limits_{1\leq i \leq m} P_{k,i} (\boldsymbol{I},\boldsymbol{F_e},\boldsymbol{F_k},\boldsymbol{F_i})/n

 これは、一人の感染者が平均して何人に感染させるか、つまり実効再生産数R_tのミクロな内実を表している。

 感染拡大率を単位時間当たりの感染拡大率に直すには時間で微分して、

\partial R_t/\partial t=\dfrac{\partial}{\partial t}\cdot \left(\sum\limits_{1\leq k\leq n }\sum\limits_{1\leq i \leq m} P_{k,i} (\boldsymbol{I},\boldsymbol{F_e},\boldsymbol{F_k},\boldsymbol{F_i})/n\right)

 実際、単位時間当たりの感染拡大率を感染力を保持する期間で積分すれば、実効再生産数が出る。

 

 実効再生産数は一世代あたりの再生産数を示すため、これが同じでも、一世代が短いほど時間単位の感染拡大が大きく、一世代が長いほど時間単位の感染拡大が小さくなる。従って、十分感染者が増えた段階では、社会生活における単位時間当たり感染率をそのまま感染拡大率に用いるほうが、数字上の感染者数の増減の見通しには適している。
 実際の感染者数の増減は、基準時点での感染者数T_0に単位時間当たり感染拡大率の時間乗を掛けたものになる。

 

T_t=T_0\cdot\left(\dfrac{\partial R_t}{\partial t}\right)^{t}

 

 最後に纏めると、実効再生産数R_tはミクロな感染確率Pの関数なので、ある時点での感染者数は

T_t=T_0\cdot\left(\dfrac{\partial}{\partial t}\cdot \left(\sum\limits_{1\leq k\leq T_0 }\sum\limits_{1\leq i \leq m} P_{k,i} (\boldsymbol{I},\boldsymbol{F_e},\boldsymbol{F_k},\boldsymbol{F_i})/T_0\right)\right)^t

となるはずである。ここでは、感染者数nは初期の感染者数T_0に置き換えられている。

 

 以上のような感染のモデル化は、疫学的対策が関数のどの項に働きかけるものか明確にする。対策はウイルスの性質や状況に応じて行われる必要があり、やみくもにやっても意味がないのである。

 

疫学的対策における必要と十分
 一般的に、ある物事の量もしくは質の有効性は、線形関係(y=ax+b)ではない。目的を達成するために必要な最低限の量もしくは質というものがある以上、そこには何らかの閾値が存在する。
 例えば、標準重力下で1kgの物体を持ち上げるために必要なニュートン力はおよそ10Nである。このとき、11Nでも12Nでも1kgの物体を持ち上げることはできるが、9Nでは物体を持ち上げられない。物体に上向きに加える力Nと「持ち上げられる/持ち上げられない」という二値の結果の間の関係においては、およそ9.8Nの位置に閾値が存在する。物体を持ち上げるという目的がある以上、9Nだろうが9.5Nだろうが物体を持ち上げられなければ意味がないのであり、10Nだろうが11Nだろうが持ち上げられさえすれば何でもよいのである。
 同じように、疫学的対策においては厳然たる閾値が存在する。それは、実効再生産数R_t=1である。
 T_t=T_0\cdot\left(\dfrac{\partial R_t}{\partial t}\right)^{t}で考えてみよう。
 t\rightarrow \inftyで感染者数Tは、R_t\le 1のとき0に収束し、R_t\ge1のとき無限に発散する。
 実際的には全体に対して感染者数の割合がかなりの程度高くなった段階で、R_tは減少していく(集団免疫)が、なにはともあれR_t\leq 1が実現しなければ感染者数は増える一方である。
 つまり、収束には実効再生産数を下げる必要があるのだが、それはR_t=1を下回らなければ十分でない。疫学的対策において、これが決定的に重要である。

 

疫学的対策の手段と効果

 前々節の式

T_t=T_0\cdot\left(\dfrac{\partial}{\partial t}\cdot \left(\sum\limits_{1\leq k\leq T_0 }\sum\limits_{1\leq i \leq m} P_{k,i} (\boldsymbol{I},\boldsymbol{F_e},\boldsymbol{F_k},\boldsymbol{F_i})/T_0\right)\right)^t

から、代表的な感染対策がどの項に働きかけ、いかなる効果を持つのかを明らかにしよう。

 まず、ある時点での感染者数T_tを決定する変数は(T_0,\boldsymbol{I},\boldsymbol{F_e},\boldsymbol{F_k},\boldsymbol{F_i})の5つである。このうち、\boldsymbol{I}はウイルスの所与の性質なので、我々が書き換えることはできない。我々に操作が許されているのは、それ以外の4つの変数である。

 これらの4つの変数は式を見れば、左項のT_0と右項の\boldsymbol{F_e},\boldsymbol{F_k},\boldsymbol{F_i}に分けられる。左項は示量変数であり、右項は示強変数である。左項への介入は感染者の発見と隔離であり、右項への介入は医療や社会的介入、つまり手洗いやマスク、抗ウイルス薬、ワクチン、自粛、ロックダウンなどなどが相当する。

 左辺に対する介入の効果は、次の式で表せる。

T_1 = (T_0-\textit{Intervation})\cdot R_t

 介入の大きさは感染者を隔離する数であり、その量は隔離用の入院病床数、母数に対する感染者の割合×検査数×検査感度に依存する。同程度の介入を行った場合その影響は、T_0が小さいときほど相対的に大きく、T_0が大きいときほど相対的に小さい。

 右辺に対する介入の効果は、例えば次のような式で近似できるだろう。

T_1 =T_0\cdot R(P_0(\boldsymbol F + \textit{Intervation})

 社会的介入は、実効再生産数及び感染確率を決定する諸変数に働きかける。同程度の介入の相対的な効果はT_0に対して常に一定、つまり、絶対的な効果はT_0が大きいほど大きく、T_0が小さいほど小さい。

 総合すれば、検査隔離は感染者数が少ないときに、社会的介入は感染者数が多いときに、費用対効果に優れる。つまり、適切な疫学的対策は、その時の感染者数に依存する。諸介入手法のなかで、感染抑制に十分な効果を発揮し、最も少ないコストで実行できる組み合わせは、適切なモデル化が行えれば、ある程度数理的な計算によって導けるはずである。

 

疫学的対策の指針と目的のための功利計算
 感染症災害下では主に次の負の功利が発生する。
  1. 感染による直接の人的被害
  2. 感染症対策のための諸政策の直接的影響による負の功利(ロックダウンに伴う経済打撃や、政策そのもののコストなど)
  3. 間接的影響。生活の変化に伴う身体的・精神的疾患など。
 政治の役割は、これらの負の功利を最小化し、公平な国民負担によって吸収することである。
 これらの負の功利をそれぞれ関数にし、その総和が最小になる点を探そう。
 まず、1.の感染による直接の人的災害は、総感染者数と総死者数、そして後遺症者数に表れる。これは、日毎感染者数と日毎死者数(感染拡大率の時間乗の対数グラフを描く。)の時間積分となる。
 総感染者数は、
\displaystyle \int_{0}^{t}T_0\cdot\left(\dfrac{\partial}{\partial t} \left(\sum\limits_{1\leq k\leq T_0 }\sum\limits_{1\leq i \leq m} P_{k,i} (\boldsymbol{I},\boldsymbol{F_e},\boldsymbol{F_k},\boldsymbol{F_i})/T_0\right)\right)^t
総死者数、総後遺症者数は、感染者死亡率および後遺症率をp:0\leq p\leq 1として、
\displaystyle p\int_{0}^{t}T_0\cdot\left(\dfrac{\partial}{\partial t} \left(\sum\limits_{1\leq k\leq T_0 }\sum\limits_{1\leq i \leq m} P_{k,i} (\boldsymbol{I},\boldsymbol{F_e},\boldsymbol{F_k},\boldsymbol{F_i})/T_0\right)\right)^t

 従って、感染拡大が収まらなければ、あるいは実効再生産数=1で日毎感染者数に変化が無くても感染が永遠に収束しなければ、t\rightarrow \inftyでこの負の功利は無限に発散する。

 

 次に、2.の疫学的対策による直接的影響は、その社会的介入の強度の時間積分に比例する。

\displaystyle\int_{0}^{t}\textit{Intervation}

 一般に、感染症対策に必要な時間は、対策の強度が強ければ強いほど短くなる。イメージとしては、時間は強度の逆数に対応する。

 強度=0ならば時間=∞でもこの負の功利は0だが、そのときは1.の感染による直接の被害が無限に発散するので、取れる選択肢ではない。

 逆に、強度=∞のときに時間=0になるが、t=0において強度∞の対策が先に行わなければならない。無限の強度の疫学的対策とは、ゾンビハザードの発生したラクーンシティを爆撃で消滅させるようなものであり、ウイルスの汚染地域を消し飛ばせば媒介者もろともいなくなるのでそれで感染対策は終了する。
 3.の間接的な影響は、基本的には1.と2.の従属関数である。これも最終的な負の功利は時間積分で求められなければならないことは念頭に入れる必要がある。どんな小さなストレスも時間が∞であれば∞の量になる。見過ごすことのできない影響であるが、さまざまな間接的手法で緩和は可能である。
 以上から、感染収束に無限時間を要するプランは、1.の負の功利が無限に発生し続けるので論外である。従って、有限時間中に感染を収束させる手立てを考える必要は明らかである。つまり、継続的に実効再生産数Rt<1を維持するために、感染規模に応じながら、負の功利を最小化する組み合わせに政策を常に調整し継続する、ということを考えなければならない。

 

新型コロナウイルス対策関連政策集

 体内の新型コロナウイルスの抗体が6か月ほどしか維持しない事実を前に、我々はもはや集団免疫形成による自然終息の望みは捨て去るほかない。
 新型コロナウイルスによる直接・間接の被害は、これが終息しない限り発生し続ける。新型コロナウイルスによる総損害は、日毎の損害の時間積分なのであるから、感染が終息しない限りは無限に発散する。
 感染症が存在する世界に社会的に"適応"する選択肢はほぼあり得ない。そのためには人口集中を完全に解消する必要があり、それは東京の解体を意味する。感染を終息させたのちに、東京一極集中を総括して行うならまだしも、緊急の救国連立内閣の使命に含めるには大きすぎる問題である。
 従って、当座は社会構造を維持したまま、有限時間のうちに感染を終息させる具体的な手立てが必要である。
基本的な疫学的対策の考え方

感染状況を5つの段階に分けて議論する。感染状況によって、相対的に有効な手立てが変わってくるからである。

さらに、この5段階を地域ごとに評価し、それぞれの地域の実状に合った対策を行う。

 

➊検査飽和・医療崩壊

 市中の感染者の割合が増えすぎると、検査しても検査しても陽性者ばかり、隔離・医療のリソースが絶対的に不足し、医療体制外での死者が続出する。ここで手をこまねいていると、労働者の間で感染が拡大することで医療だけでなく物流をはじめとした社会機能そのものが崩壊し、貧困と飢餓が治安の悪化を呼び、完全に制御不能な悲惨な事態に進展しうる。想定としては2021年春のインドでの感染爆発である。

 この状況になってから医療体制を強化しようとしても、医療体制は等差数列でしか増えない一方、感染者は等比数列で増えるのだから確実に間に合わない。実効再生産数を大幅に下げるためにロックダウンは不可避である。

 この状況で行う施策は以下である。

・補償と現物支給付きのハードロックダウン、全面外出禁止

・食糧生産と物流関係に感染対策リソースを集中し、餓死者を出さないことを目標とする。

・家賃および水道光熱費等の支払いの全面的な猶予と必要に応じた事後的な免除および補填

・ロックダウンによって発生した余剰の食料や生活必需品を地方自治体が政府の予算で買い上げて支給物品とする。

・ランダムサンプリングでのPCR検査によって、市中の感染者濃度を算出、総感染者数を推計し、注視する。

 

➋市中蔓延

 ハードロックダウンによって感染者数(推計)が医療を受け入れられる程度に減少してきた段階。あるいは、市中感染が拡大し検査が飽和・医療崩壊に近づきつつある段階。

 ここでは、有効なレベルでの社会的介入と医療の充実を並行して行う。施策は以下である。

・リモートワークの強い推奨。場合によっては通勤通学路線の電車・バスの全面運休。

・休校措置もしくは全面オンライン授業での代替

・自粛期間中の生活を賄える程度の現金給付付きの自粛要請

・補償付きの大型商業施設および飲食店の休業要請

・大型イベントの中止。感染拡大前から準備していたものについては損失を補填。

・中、遠距離移動の制限。高速道路入り口及び新幹線駅、空港の用途を物流医療関係のみに制限。

・医療およびケア労働に感染対策リソースを集中し、誰一人取りこぼさない感染症対策を行う。

・自粛によって発生した余剰の食料や生活必需品を地方自治体が買い上げ、必要な人に支給する。

・感染疑いのある人(有症状者およびその接触者)すべてにPCR検査を行い、陽性ならば保護隔離する。

医療機関への支援を強化し、治療体制を強化する。病床数を可能最大限まで確保する。場合によってはプレハブ、コンテナもしくはテントの病棟を各学校の校庭などに設置する。

・陽性者からランダムサンプリングでゲノム解析を行う。憂慮すべき変異株の状況を把握し感染拡大の見通しに加味する。

 

➌市中感染

 自粛等により感染者数がさらに減少してきた段階。もしくは、感染が拡大しすべての感染者の追跡が不可能になった段階。

 この段階での社会的介入(自粛やロックダウン)は、防げる感染者数に対して経済的なダメージが大きい。感染者数が1だろうが1万だろうが、自粛によって実効再生産数を下げるためには同じだけ人流を制限しなければならない。検査数が十分に足りているうちは検査隔離を主として感染制圧を目指すほうが、費用対効果が高い。従って施策は以下である。

・日常生活で可能な範囲での感染防止の呼びかけ(マスク着用、換気、手洗い)。とくに換気は非常に重要である。

・リモートワークの推奨。満員電車の緩和。

・「いつでもだれでもどこでも」PCR検査を充実させ、希望者すべてに検査を行う。特に中長距離移動の前後には検査を呼びかける。

・症状の有無にかかわらず感染者の接触者は、漏れなく全数検査する。

・無症状者は専用の施設にて保護する。その際、快適かつ安全な生活と、生業の保障をする。雇用者に対して、隔離を理由とした不利益な処遇を禁止する。

・医療に感染対策のリソースを集中し、院内感染を防ぐ。

介護施設等の感染症に対して脆弱な施設には予防的に面会制限など外部との接触の低減を呼びかける。

・陽性者のうちすべてもしくはなるべく多くの検体を抽出してゲノム解析を行う。憂慮すべき変異株の状況を把握し感染拡大の見通しに加味する。

 

➍全感染者追跡可能

検査・隔離によって感染者数がさらに減少し、すべての感染者の行動歴・接触歴を追跡し、感染経路のすべてを把握できるようになった段階。もしくは、感染発生の初期段階。

この段階では、新たな感染源の流入防止と感染追跡に力を入れるとともに、取りこぼしがないか広い範囲を覆う検査を行う。追跡が可能であるか不可能であるかで全くゲームが変わるので、踏ん張りどころである。

感染拡大期に比べてリソースに余裕があるため、感染者や接触者に十分な配慮が可能。

・市民は日常生活を送ることができる。

接触者追跡を積極的に行い、同時的でなくても同じ空間を利用した人すべてに複数回の検査を行う。

・明確な接触者(同時的に同じ空間を共有した人)は専用の施設で14日間隔離する。その際、快適かつ安全な生活と、生業の保障をする。隔離を理由とした不利益な処遇を禁止する。

・空港及び港湾での検疫を徹底、すべての入国者に規定日数の隔離を行い、海外からの新規感染者の流入を阻止する。

・陽性者全員の保有するコロナウイルスゲノム解析を行い、感染経路を確定する。

 

❺感染なし

十分な検査を行っても一週間以上国内新規感染者が0の段階。下水からもウイルスが検出されない段階。

その地域内のウイルスは根絶できたと考えられる。地域外から新たな感染源が流入することを防ぐために、検査・感染対策リソースを費やす。

・市民は日常生活を送ることができる。

・空港及び港湾で、すべての渡航者にPCR検査と規定日数の隔離をする。

・地域的に感染なしを実現した場合、主要列車駅や高速道路入り口等でも全数PCR検査を行う。

・感染対策のリソースをこれらの空港・港湾・鉄道労働者に集中する。

・国内での有症状者に積極的にPCR検査を行い、検疫漏れを二段構えで発見できるようにする。

・下水検査によって検疫漏れを早期に検出し、地域的なプール検査から感染者を絞り込み、最終的には個別のPCR検査で感染者を発見する。

・ワクチンの接種を速やかに進め、感染の再拡大を防ぐ。

 

経済政策についての基本的な考え方
 新型コロナウイルス感染症は、世界的に経済への打撃を与えている。日本では感染が根絶できても世界の動向によっては日本経済に大きな影響が依然として及ぶであろうし、地方で感染を根絶できていても東京がロックダウンしていれば日本経済全体に影響が及ぶ。従って、貧困対策・経済対策は感染の有無にかかわらず日本全国的に行われる必要がある。
 

 感染症災害下における経済政策は大別して環境適応かリターン・トゥ・ノーマルかの二つに分けられる。

 環境適応型は、コロナという災害的状況下に適応するよう促すものである。感染予防のための費用に対する助成金や、業態転換に対する助成金などがそれである。

 感染症が蔓延していても安全に業務が行えるならば、感染症によって直接的な影響を受けることなく事業を行うことができる。感染が収束しなくても生きていけるようになる。そして、まさにそのことによって感染終息に寄与する。

 一方、この環境に社会が過剰適応し、生存できない事業者が淘汰された後で、感染症が終息した場合、日本経済は大きな破壊を受けたことになる。企業はすぐに生えてくるものではなく、供給が回復するには時間がかかる。結果的に経済に大きな空洞ができる。

 

 リターントゥノーマル型は、コロナ以前の業態を維持するための支援である。雇用維持のための補助、家賃の支援、コロナ無視の消費振興施策(GoTo)などがそれである。

 感染症によって業務が行えなくても、その分の補填があれば構造を維持することができる。一方で、給付によって支え続けるには限界がある。コロナが収束しない場合、多くの企業が国庫に依存し続けることになり、不健全である。

 また、GoToなどの消費振興施策はコロナの実態を無視して需要が造られ続けるため、感染拡大に寄与してしまうことになる。

 

 重要なのは、この二つの役割をきちんと理解し、うまくハイブリッドさせた政策をとることである。一方では供給のための構造を維持し、もう一方では現状に合わせて適用できるようにする。大量破壊による淘汰ではなく、緩やかな変化と適応を可能にし、促すものがよい。

 

 また、状況に合わせた変化がおこるようなコミュニケーションが行われる必要がある。正しく状況を理解し、有効な変化を起こすためには、正しい情報が必要である。どれだけの額の投資があっても、今の日本の非科学的な感染予防に乗っていてはうまくいかない。

 また、コロナの収束の見通し如何で企業の活動は大いに左右される。そのためにも収束に向けたロードマップは非常に重要である。

 

 経済政策および感染症対策の財源は、国債の発行と、目的税として法人税を時限的に増税して充てる。目下のところ、経済主体がこの危機を生き残ることが先決であり、余裕があったり危機に乗じて例外的に収益を上げている企業に対して理解を求めるしかない。

 

有限時間での感染収束に向けたロードマップ
救国連立内閣は、コロナ終息・殲滅に向けたロードマップを作成する。以下はたたき台的な概略である。
➊全国的な蔓延期
全国で市中感染が蔓延し、検査も飽和、医療が崩壊している事態。
この事態においては、もはやハードロックダウン以外に手立てがない。「お手上げ」して敵前逃亡すれば、社会機能の崩壊によって感染拡大は次第に緩やかになっていくが、取り返しのつかない失敗となる。
すべての都市と地方都市を1か月以上にわたって封鎖、例外を伴う外出禁止を行う。人口密度の低い農村部や山間部では検査を徹底し、日常生活に対しては制限は行わない。エッセンシャルワーカーは外出禁止の例外であり、これにたいして感染防止リソースを集中する。
ハードロックダウンによって余剰した食料・生活必需品・医薬品を国が買い上げ、現物を各個人に支給する。物流関係に検査・感染対策リソースを集中し、餓死者が出ないことを目標とする。
ランダムサンプリングで感染濃度を把握し、一定まで下がれば次の段階へ移行する。
➋全国都市部における蔓延
全国都市部で市中感染が蔓延、検査飽和、医療崩壊寸前。
強力な社会的介入が今すぐに必要である。
都市部でロックダウンを行い、例外を除いて会社は全リモート化、学校は休校もしくは同様に全リモート化。
都市部では電車を止め、運行は貨物列車のみとする。
高速道路および主要な国道は物流と医療関係のみとする。
一夜城のようにプレハブもしくはコンテナの臨時病棟を各学校の校庭、公園などに大量に配置し、すべての感染者を隔離・治療できるようにする。その際、プレハブやコンテナは規格化し、全国で同一のものを生産する。これは感染拡大に備え事前に準備しておく。
交通の要所にPCR検査検疫を設置し、人流の制限と感染者の発見保護隔離を同時に行う。
すべての商業施設に、対面での接客、客同士の接触を最低限にするよう通達する。これにより、飲食業はテイクアウトのみ、巨大商業施設は機能を大幅に制限される。
最低限の生存の保障のため一人月5万円程度現金の給付を行い、外出は最寄りのコンビニもしくはスーパーマーケット程度にとどめるよう「お願い」する。実効的な制限は、交通制限と上の商業施設への介入による。
すべての家賃・水道光熱費の納入は猶予され、当座は国及び地方自治体がそのすべてを建て替えることとする。
家賃収入に頼っている小地主は、上の月5万程度の現金給付により生存を保障される。
 
➌すべての主要都市部における蔓延
主要都市部およびその周辺の労働者供給地域において蔓延、検査飽和。局所的な医療崩壊の可能性。
放置すれば地方に飛び火し手の付けられない事態に陥る可能性がある。感染地域の拡大を防止し、都市部にリソースを集中できるようにし、抑え込む必要がある。
都市圏を封鎖し、地方への飛び火を防ぐ。感染者の少ない地域は新幹線および高速道路の出口を自衛的に封鎖する。ただし、物流関係においてはPCR検査の上例外を設ける。飛行機は各空港にて全数PCR検査を行う。
検査・治療リソースを感染拡大地域に集中し、命を守る手立てをとる。
感染拡大地域では商業施設等に制限を行い、学校は休校もしくはリモート化、会社はリモート化を強く推奨する。
感染拡大地域では、外出の強い抑制を呼びかける。
最低限の生存の保障のため、一人月5万円程度の現金の給付を行う。
感染拡大地域においては、家賃と水道光熱費の納入の猶予を行い、国及び地方自治体が建て替える。
 
➍複数の都市での蔓延
複数の都市部で蔓延、陽性率5~10%、医療のひっ迫が起こる。
放置すれば主要鉄道・幹線道路に沿って感染が拡大し、すべての主要都市における蔓延に繋がる。
感染都市における高速道路の入り口の封鎖、新幹線の減便を行い、都市間での飛び火を防ぐ。
局所的に(市区町村単位で)外出・通勤・通学を制限する。
「いつでもだれでもどこでも」検査を全国で行い、感染の面的な広がりを未然に防ぐ。感染地域ではプール方式を活用した全数検査も行い、感染者を洗い出す。
大規模イベント等は制限し、大規模な感染拡大を防ぐ。
水道光熱費等の支払いのためも含め、生存保障のための一人月10万程度の現金給付を全国一律で行う。感染していない地域においても、複数主要都市が封鎖されれば命に係わる経済打撃が発生し、これを避けんために検疫が突破されかねないため。
 
❺一都市での蔓延
一つの都市で感染爆発、陽性率<5%、局所的な医療危機。
放置すればほかの都市に飛び火し、さらに感染が拡大する。点での感染拡大が面での感染拡大にならぬように抑え込むのが肝要である。
感染都市を完全に封鎖し、大規模検査・隔離を行う。時間距離的に周辺都市では予防的な大規模検査と医療体制の準備、「遠い」地域から当該感染地域に医療の応援を行う。
感染都市では当該自治体の指揮のもとで現物の支援と家賃や水道光熱費等の支払いの猶予を行う。国はこれを財政的に支援する。
 
❻市中感染中期
市中蔓延には至っていないものの、追跡不能な市中感染が複数発生している状況。
社会的介入はコストパフォーマンスが悪く、大規模検査・隔離による抑え込みが最も重要な局面である。
PCR検査にリソースを集中させ、とくに人口集中地域・都市部では「いつでもだれでもどこでも」検査を実現させる。地方・農村部でも定期的なプール検査および下水検査でウイルスの流入を察知する。
換気、マスク等の感染防止策を徹底させる。
 
❼市中感染初期
追跡不能な市中感染が発生している状況。
追跡能力の強化、接触者全員検査が重要。
小単位でのプール検査や下水検査から的を絞ったうえでの全数検査で孤発例の把握を把握し、追跡対象に加える。
不特定多数との接触を発生させる業種には、感染追跡の協力を確約させ、客の行動の記録を呼びかける。(何番の座席に座ったか、何時間滞在したか、など)
大規模イベント等は、感染が発生した場合に参加者全員を追跡できるようにすることを条件に実施する。
換気、マスク等の感染防止策を行う。
飛行機および船舶の国際便の検疫を徹底し、PCR検査と14日間隔離を徹底して行う。その際、対応するために接触する職員は特別の感染防止居住区画に滞在し、市中にウイルスを持ち込まないようにする。
 
➑感染拡大初期
感染者は追跡できている状態。
接触者全員14日間隔離(陰性陽性関わらず)・検査による早期決着が重要。
感染者の追跡にリソースを割き、少しでも接触可能性のある人はPCR検査、確実に接触している人は14日間隔離する。
下水検査等で予防的な検査を行い、地域ごとに新たな感染者がいないことを確認し続ける。
隔離には十分な金銭的補償および、ホテル借り上げ(ただし通気口を通じての感染が無いようよく確認し、必要に応じて工事する)による快適な環境が与えられる。
引き続き国際便の検疫を徹底する。新たな感染源の発生を防ぐ。
 
➒感染出現期
主な感染者は海外からの流入である状態。
感染者については接触者の追跡にリソースを集中し、接触可能性のある希望者に必ずPCR検査を行う。それでも件数は一人の感染者について1000人も行かないであろうから、蔓延期に比べれば検査数は十分に足りる。
しかし、見えないところで感染拡大している可能性があるため、下水検査などでグリーンゾーンを担保し続ける必要がある。
検疫を徹底する。
社会的制限は行わない。
 
❿未感染期
感染者のいない状態。国内でウイルスを殲滅できている状態。
検疫にリソースを集中する。
下水検査で国内の安全を確認し続ける。
余剰の検査リソースは、予防的な抽出検査に回し、インフルエンザや風邪様症状の人に積極的に検査を行う。
ワクチンによる"蓋"を速やかに行う。
中長期的な抜本的感染症対策

 そもそも感染症災害は、人口の集住に伴う半ば必然的な現象であり、人類文明の歴史は感染症との闘いの歴史と言っても過言ではない。したがって抜本的な感染症対策とは、人口集中の解消と一体である。

 経済社会のインターネット化をさらに推し進め、リモート勤務の活用とともに地方移住を呼びかけ支援し、都市部への人口集中を緩和する。

 かつては不可能だったことが、技術的な進歩によって可能になりつつある。この危機を奇貨として、社会を緩やかに変化させていくことが、次なる感染症危機に対する備えともなるのである。

*1:例えば、コレラの病原体が特定される以前に、ジョン・スノウによるコレラの感染の疫学的な研究Mode of Communication of Cholera(John Snow, 1855)がある。